コワーキングスペース開業にかかる費用の目安
近年、リモートワークの普及や副業の広がりに伴い、コワーキングスペースの需要が高まっています。
それに伴い、自らコワーキングスペースを開業してビジネスにしたいと考える人も増えているのではないでしょうか?
では、実際にコワーキングスペースを開業するにはどの程度の資金が必要なのでしょうか。
結論から言えば、開業に必要な初期費用の目安はおおむね100万円~1,000万円程度といわれます。
ただし、この幅は物件の状況や立地、規模などによって大きく変動してきます。
例えば、自社で所有する遊休スペースを活用できる場合や、既存の店舗を居抜きやスケルトンで活用する場合は数百万円以下の比較的低コストで始めることができます。
一方、都心部で新たに物件を賃借してゼロから内装工事を行う場合には、1,000万円前後のまとまった資金が必要になるケースもあります。
開業費用の中心となるのは物件取得費(保証金・敷金や礼金など)と内装工事費です。
コワーキングスペースはカフェ等の飲食業と異なり特別な資格や営業許可が不要なため、設備投資にかかるコストは比較的抑えやすい一方、物件関連費用が開業資金の大部分を占める点に注意が必要です。
また、開業後の運転資金(家賃・光熱費や人件費など、軌道に乗るまでの数ヶ月分の費用)も見込んでおかなければなりません。
この記事では、具体的な費用内訳とモデルケースによる費用シミュレーションを解説してきます。
コワーキングスペース開業に必要な主な初期費用の内訳には、次のような項目があります。
①物件取得費
賃貸物件を借りる際の保証金・敷金、礼金、前家賃、仲介手数料などの費用です。
物件にもよりますが、賃料の数ヶ月分(2~6ヶ月分程度)をまとめて支払う必要があるため、大きな負担になります。
②内装工事費
スペースの用途変更や快適なワークスペースを作るための内装工事費用です。
壁や床の改装、照明工事、電源増設、空調設備の調整などが含まれます。デザインにこだわったり個室ブースや会議室を新設したりすると、費用がかさみます。
③設備・什器費
オフィス家具(デスク、チェア、書棚など)や什器類、インターネット関連機器(高性能Wi-Fiルーター、ネットワーク配線)、防犯カメラ、複合機(プリンター・コピー機)、プロジェクターなど、業務に必要な設備の購入費です。
中古品やレンタルを活用すれば安く抑えられますが、品質や耐久性も考慮しましょう。
④諸経費・開業準備費
開業前に必要な各種手続き費用(法人設立や開業届関連の費用 ※個人事業主なら比較的少額)、広告宣伝費(ホームページ制作費、チラシ作成費、看板設置費など)、スタッフ採用や研修費用(有人受付を設ける場合)などの費用です。
小規模で始める場合は広告はSNS中心にして費用ゼロに近づけたり、スタッフ無配置にすることで抑えられます。
⑤運転資金(開業後の資金)
開業直後から安定した収益が得られるとは限らないため、当面の運営費を用意しておく必要があります。家賃・光熱水費、通信費、消耗品費、そして人件費(スタッフを置く場合)など、少なくとも数ヶ月分の運転資金を確保しておくと安心です。
一般には賃料の数ヶ月分(2~6ヶ月程度)を運転資金として見込むケースが多いです。
以上を踏まえ、モデルケースとして「50坪(約165㎡)の物件を月額賃料50万円で借りて開業する場合」の初期費用シミュレーションを表にまとめます。実際の金額は物件や施工内容によって変動しますが、目安として以下に示します。
費用項目 | 費用の目安 | 目安費用 ※50坪・賃料50万円の場合 |
---|---|---|
物件取得費 (保証金・敷金、礼金など) | 賃料の約2~6ヶ月分(初期費用全体の約20%) | 約100万~300万円 |
内装工事費 (デザイン設計・内装施工) | 初期費用全体の約50%(※施工内容による) | 約250万~750万円 |
設備・家具購入費 (什器類) | 初期費用全体の一部に含む(内装工事費に含める場合も) | ※上記内装工事費に含む |
諸経費 (宣伝費、人材採用等) | 初期費用全体の約10% | 約50万~150万円 |
開業後の運転資金 (家賃・光熱費、人件費等の準備) | 賃料の数ヶ月分 (初期費用全体の約20%) | 約100万~300万円 |
合計 | 約500万~1,500万円 |
上記のシミュレーションからも分かるように、内装工事費が開業費用の中で最も大きな割合を占めます。
おしゃれで機能的な空間を作ろうとすればするほど費用は嵩みますが、一方で内装や家具にこだわり過ぎず工夫することでコスト削減も可能です。
例えば、居抜き物件(前のテナントが使用していた内装や設備をある程度流用できる物件)やスケルトン物件を活用すれば、内装工事費を大幅に圧縮できます。
また、机や椅子なども中古品を上手に取り入れる、必要なものだけ購入して徐々に設備を拡充する、といった方法で初期投資を抑えることができます。
地域・規模による費用の違い
開業費用は物件の所在地や規模によっても大きく異なります。
特に都市部(例:東京23区)と地方都市(例:福岡市や名古屋市など)では、物件賃料や初期費用の相場に差があります。
一般的に、都心部の一等地ほど賃料や敷金等の初期負担は高額になります。
例えば、東京23区内のオフィス物件では1坪あたりの月額賃料が2万円以上となるエリアも多く、50坪規模で借りれば月額賃料が100万円前後になるケースもあります。
そうなると敷金・保証金だけで数百万円(6~12ヶ月分など)必要となり、内装工事費も含めると初期費用が優に1,500万~2,000万円を超える可能性があります。
一方、地方都市では都心に比べて賃料相場が低いため、同じ50坪規模でも月額賃料が30万~40万円程度に収まることがあります。
敷金も2~3ヶ月分など比較的低めに設定されることが多く、結果として初期費用総額も500万~800万円前後で開業できるケースも見られます。ただし、地方では潜在的な利用者数が都市部より少ない可能性もあるため、無理に大規模なスペースを構えるより需要に見合った適切な規模から始めることが重要です。
また、物件規模そのものによる違いも考慮しましょう。
小規模なコワーキングスペース(例えば10坪程度で数席のワークスペース)の場合は、内装や設備にかかる総額は抑えられますが、規模が小さい分、一人当たり・坪当たりの収益効率が高くないと採算が取りにくいです。
逆に大規模なスペース(100坪超など)の場合、初期費用は数千万円規模になる可能性がありますが、多くの会員を収容できるため運営が軌道に乗れば利益も大きくなり得ます。
つまり、地域の需要と用意できる資金を踏まえて、適切な規模・立地の物件を選ぶことが、開業費用と将来の収支バランス両面で重要だと言えます。
具体的に、都心と地方の費用目安を比較した例を以下に示します。
項目 | 都心部の例 (東京23区内) | 地方都市の例 (政令市クラス) |
月額賃料 ※50坪想定 | 約80万~100万円 坪あたり1.6万~2万円 | 約30万~40万円 坪あたり0.6万~0.8万円 |
初期物件費用 (敷金・礼金等) | 賃料の6~12ヶ月分(例:480万~1,000万円) | 賃料の3~6ヶ月分(例:90万~240万円) |
内装・設備投資 | 高め (競合多数、デザイン重視で増加傾向) | やや低め (工事費単価も若干低減) |
初期費用総額の目安 | 1,500万~2,000万円超 | 500万~800万円程度 |
見込まれる利用者需要 | 多い (企業利用やフリーランス多数) | 徐々に増加 (地域の需要次第) |
上記はあくまで一例ですが、都心部では立地の良さと引き換えに高コストの負担を強いられること、地方では初期コストを抑えやすいが集客面で工夫が必要なことが分かります。
なお、物件を自前で用意できる場合(例えば自社ビルや空き家を改装する場合)は、この表には当てはまらないほど初期費用を低減できる可能性があります。
極端なケースでは、物件取得費がゼロで済むため、内装や家具の費用だけで開業できることもあります。
コワーキングスペース開業の流れ
初期費用の検討と並行して、実際に開業するための手順や準備も押さえておきましょう。
コワーキングスペース開業までの一般的な流れをステップごとに解説していきます。
1. コンセプト設計と事業計画の策定
まずはコンセプト(基本方針)を明確に決めることが重要です。
どのような利用者をターゲットに、どんな価値を提供するコワーキングスペースにするのかを検討します。
例えば・・・
・ITフリーランスやスタートアップ向けに24時間使えるハイセキュリティな空間を提供!
・子育て中の親向けにキッズスペース併設で利用しやすい環境にする
・地域のクリエイターが集まるコミュニティ重視の場にする
など、差別化につながる特徴を考えます。
コンセプトが決まったら、それを踏まえて事業計画書を作成します。
事業計画には市場ニーズの調査結果、想定するサービス内容、料金プラン、収支シミュレーション(収入見込みと経費、損益分岐点の計算)、資金計画などを盛り込みます。
事業計画を立てることで、具体的にどれだけの初期費用が必要で、開業後どれくらいで黒字化できそうかが見えてきます。
また、融資を受ける際や補助金申請にも事業計画書が必要になるため、しっかり作り込んでおきましょう。
事業計画書の相談や融資、補助金申請のアドバイスは、以下の相談先がまずはおすすめですまた、複数掛け持ちすることで、様々な意見をもらえるので、複数箇所に相談にいくといいでしょう。
①商工会議所・商工会
②自治体の創業支援窓口
③日本政策金融公庫(JFC)
④認定支援機関(税理士・中小企業診断士など)
⑤地域金融機関(地銀・信金)

商工会議所で概要を相談し、専門的な事業計画は税理士や診断士に詰めてもらい、日本政策金融公庫で融資申請、といった流れもよくあります。
2. 資金計画と資金調達
事業計画で必要な開業資金の概算が出たら、資金計画を立てます。
自己資金で足りない部分はどのように調達するか検討しましょう。
資金調達は、銀行融資や自治体の創業支援融資、クラウドファンディング、補助金・助成金の活用など様々な方法があります。各手段の条件を確認し、自身に適した方法を選びましょう。
借入をする場合は返済計画まで含めて検討し、無理のない範囲にとどめることが大切です。また、国や自治体による補助金制度が利用できれば、返済不要の資金援助として初期費用負担を減らせます。
3. 物件探しと契約
資金の目処が立ったら、物件選びに入ります。
ターゲットとする利用者層にとって利用しやすいエリア・立地を選ぶことがポイントです。
一般的には駅から徒歩圏内でアクセスが良い場所ほど集客しやすいですが、その分賃料も高くなります。事業計画と予算に照らして、無理なく賃料を支払っていける物件規模・家賃の範囲で探しましょう。
物件選定では、広さ(坪数)や間取りも重要です。オープンスペースの席数だけでなく、小会議室や個室ブースを設置する余地があるか、トイレや給湯室の位置・数、空調設備や電源容量なども確認します。
ビルの用途区域や構造も要チェックです。例えばオフィスビルであれば問題ありませんが、住居用マンションの一室を改装する場合は契約上業務利用が禁止されていないか確認が必要です。
また、賃貸借契約時にはその物件でコワーキングスペース営業を行って良いか(業種変更が契約違反とならないか)をオーナーや管理会社に事前に確認しましょう。
気に入った物件が見つかったら、賃貸借契約を締結します。
契約時には保証金・敷金や礼金などまとまった資金を支払うことになるため、資金繰りとタイミングにも注意が必要です。
場合によっては、契約開始から開業まで数ヶ月の家賃発生が無駄にならないよう内装工事の日程を調整したり、オーナーと交渉してフリーレント(契約当初の一定期間の賃料無料)を設けてもらえる可能性もあります。
4. 内装デザイン・工事と備品手配
物件契約が完了したら、次は内装デザインと工事のフェーズです。
コンセプトに沿った魅力的かつ機能的な空間になるようレイアウトを設計します。専門の内装デザイナーや施工業者に依頼する場合は、複数社から見積もり(相見積もり)を取って比較検討することで、適正な工事内容と費用を見極めます。
予算が限られる場合は、可能な範囲でDIYを取り入れたり、最低限必要な工事に絞ることも検討しましょう。
レイアウト設計では、フリーアドレスの共有デスクエリア、固定席エリア、会議室や電話ブース、リフレッシュスペース(ラウンジやカフェスペース)など、提供するサービスに応じたゾーニングを決めます。
利用者が快適に過ごせる動線や騒音対策なども考慮しつつ、内装プランを練りましょう。
内装工事と並行して、家具や設備の手配も進めます。ワークチェアやデスクは利用者の使用感に直結する重要な備品です。長時間座っても疲れにくい椅子、大きめで作業しやすい机など、できるだけ質の良いものを選びたいところですが、予算とのバランスも取る必要があります。
中古オフィス家具専門店を利用すれば、新品の半額以下で揃えられる場合もあります。
その他、ネットワーク設備(光回線契約、業務用Wi-Fiルーターの設置)、セキュリティ設備(防犯カメラや入退室管理システム)、共用プリンターやプロジェクター、ロッカーや郵便受け(登記利用や郵便サービスを提供する場合)、フリードリンク用のコーヒーメーカー・ウォーターサーバーなど、必要に応じて購入・設置します。
工事費の負担を減らすため、工事不要で後付けできる備品で対応できる部分は備品で補うのもポイントです(例:配線工事の代わりにポータブルWi-Fiや延長コードで対応する等)。
なお、カフェ営業を併設する場合は内装工事に加えて厨房設備の導入や保健所の許可取得が必要となります。
コワーキングスペース自体の営業には特別な免許は要りませんが、飲食提供をするなら「飲食店営業許可」や「食品衛生責任者」の配置が必要となる点も忘れずに準備します。
5. 運営システムの導入と準備
快適なコワーキングスペースを作るには、物理的な空間だけでなく運営の仕組み作りも重要です。
無人運営を実現するため、入退室管理システム(スマートロック等)や予約・決済システム、会員管理システムなどを導入します。
これらを一括導入できるクラウドサービスもあり、人手を大幅に減らすことが可能です。通信環境も重要で、高速なネット回線と十分なWi-Fi環境を整備しておきましょう。
このようなシステム導入は初期費用がかかりますが、固定費削減のための先行投資と言えます。
一方で、受付スタッフを常駐させる有人運営を行う場合はシステム費用を抑えられますが、その分人件費が継続的に発生します。平日昼のみスタッフ配置、夜間無人といった併用も可能なので、自身のコンセプトと予算に合った運営形態を検討しましょう。
また、利用規約や会員契約書の作成、施設内のルール整備(マナーや禁止事項の明示)なども忘れずに準備しておきます。
6. 集客・マーケティング活動
開業前後には、集客のためのマーケティングも欠かせません。
まずはWebサイトやSNSを活用して、自身のコワーキングスペースの存在を周知しましょう。Googleマップやポータルサイトに登録しておけば、近隣でコワーキングスペースを探している人の目に留まりやすくなります。また、開業前に内覧会やプレオープンイベントを開催して、地元の企業やフリーランスにアプローチするのも効果的です。
広告宣伝費に余裕があれば、地域のフリーペーパーや情報誌への掲載、ターゲット層が集まりそうな場所でのチラシ配布なども検討できます。
予算が少ない場合でも、SNS(X/TwitterやFacebook、Instagramなど)で情報発信したり、運営者自身がブログで開業までの奮闘記を公開することで共感を呼び、オープン時の集客につなげる工夫ができます。
さらに、料金プランやキャンペーンの設計も集客の鍵です。
たとえば、最初の1ヶ月はお試し価格で利用できるキャンペーン、友人紹介割引、学生向けディスカウント、特定の業種限定のイベント開催など、ターゲットに響く企画を用意しましょう。
コワーキングスペースは利用者同士の口コミも影響しやすいので、開業当初に少しでも多くの人に来てもらい、満足してもらうことが軌道に乗せるポイントです。

開業時の注意点と成功のポイント
以上の流れを踏まえつつ、コワーキングスペースを開業・運営する上で特に注意すべき点や成功のためのポイントを整理します。
コンセプトの明確化と付加価値の提供
前述のとおり、コンセプトはビジネスの土台です。ここが不明確なまま開業してしまうと、「ただの場所貸し」で差別化要素がないスペースになりがちです。
利用者がコワーキングスペースに求めるのは、単に机と椅子とWi-Fiがあるだけの空間ではありません。集中しやすい静かな環境、快適な設備、利用者同士の交流が生まれる雰囲気、新しい刺激やコミュニティといった付加価値を期待しています。
安易に「最近流行っているから」「空きテナントがあるから」という理由だけで始めるのではなく、「誰のために、何を提供するのか」を開業前にしっかり練り上げましょう。
なお、料金設定は周辺相場を踏まえつつ、安さだけではなく提供価値で勝負する姿勢が重要です。
他にはない独自の強みを備えることで、「多少高くてもここを使いたい」と思ってもらえる魅力を追求しましょう。
コスト管理と収支バランスの重視
開業にあたり投資した資金を、事業収益で回収できなければ継続はできません。
内装に凝った立派な空間を作ること自体は魅力的ですが、それに見合う収益を上げられなければ単なる自己満足で終わってしまいます。
特に融資など借入金で多額の初期費用を賄った場合、毎月の返済が経営を圧迫しやすいため注意が必要です。
収支計画上の損益分岐点を常に意識し、コスト管理を徹底することが求められます。例えば、毎月の固定費が100万円かかるなら、月額会員単価2万円の場合は約50人の会員が必要となります。
このように具体的な数字で採算ラインを把握しておけば、開業後に軌道修正すべき状況も判断しやすくなります。
人的コストについて言えば、前述した無人運営の工夫は非常に有効です。受付スタッフを置くと、フルタイム換算で月数十万円の人件費が発生します。人件費はコワーキングスペース運営において大きな割合を占める固定費ですので、可能な範囲で省力化・無人化することで利益率を上げることができます。
ただし、防犯面やサービス品質とのバランスもあるため、全てのケースで無人が最適とは限りません。例えば、小規模スペースでオーナー自身が常駐できるなら人的コストゼロで安心感を提供できますし、逆に大規模スペースで無人運営にするなら高度な管理システムの導入が必要でしょう。
規模と運営方針に応じて最適なコスト配分を考えることが大切です。
市場ニーズの調査と需要の見極め
コワーキングスペース開業を成功させるには、「需要がある場所に、需要に見合ったサービスを提供する」ことが不可欠です。そのためには事前の市場調査を念入りに行うべきです。
立地周辺のターゲット層(例えばIT系企業が多い地区か、大学が近く学生需要が見込めるか、住宅地で主婦やリモートワーカーが多いかなど)を調べ、どの程度のニーズがあるかを推測します。
また、既存の競合となるコワーキングスペースやレンタルオフィスが近隣にどれくらいあるか、その評判や料金はどうかも調査しましょう。競合が多いエリアであれば、その中で勝ち残る差別化策を講じる必要がありますし、逆に未開拓のエリアであればニーズ喚起のための工夫が求められます。
例えば、大人数用の会議室を設けたものの実際には需要がなく空室になってしまった、といった失敗も現実にあります。
このようなミスマッチを防ぐには、できるだけ具体的なデータに基づいて判断することが大事です。会議室ポータルサイトの利用状況調査や関連キーワードの検索ボリューム分析などを通じて、「どの規模のスペースがどのくらいの頻度で使われるのか」まで把握するよう努めましょう。
勘やトレンドだけで動くのではなく、定性・定量の両面から需要を見極めることが成功への近道です。
変化への適応力と柔軟な運営
計画通りに物事が進むとは限りません。市場環境は常に変化します。
オープン後は利用者の声に耳を傾け、当初の計画に固執せずサービス内容や料金プラン、レイアウトなどを柔軟に見直していく姿勢が求められます。市場環境の変化にも常に目を配りましょう。
例えば、リモートワーク需要の増減や企業の働き方政策の動向など、外部の要因によって利用者数が変動する可能性もあります。そうした変化に対応するため、契約期間の柔軟化(短期プランの導入など)や新サービスの追加など、状況に応じて運営戦略を調整できるようにしておくと安心です。
開業後のコミュニティ作りとサービス品質
コワーキングスペースの魅力は単なる物理的な場所提供に留まらず、そこから生まれるコミュニティやネットワークにもあります。
運営者として、利用者同士が交流しやすい雰囲気を醸成したり、イベント(交流会や勉強会など)を企画することで、付加価値を高めることができます。
コミュニティが活発になれば会員の定着率が上がり、新規集客も紹介によってスムーズになるなど好循環が生まれます。
初期の段階では、運営者自身が利用者と積極的にコミュニケーションを取り、細かな要望や不満を汲み取って即対応する姿勢も重要です。
「ここは居心地が良い」「運営がしっかりしている」といった信頼を利用者に持ってもらえれば、長期的な顧客になってもらえる可能性が高まります。
成功例・モデルケース紹介
ケース1: 遊休スペースを活用し低コスト開業に成功
ある地方都市の事例では、ホテル内の未使用ラウンジ(約30坪)を活用してコワーキングスペースを開業しました。
元々宴会場や朝食会場として使われていたスペースを、その内装を大きく変えずに転用したため、大規模な内装工事は行っていません。既存のテーブルやソファの配置換えを行い、足りない家具のみを追加購入するといったミニマムな改装で済ませています。導入した設備も、共用の大型デスクと椅子、スマートロック式の入退室システム、受付用タブレット端末、防犯カメラ数台、Wi-Fiルーター、ウォーターサーバー、プリンターといった基本的なものに絞り、高額な什器は新調しませんでした。
その結果、初期費用は約150万円に収まり、同規模のコワーキングスペースを一から内装工事して開業する場合と比べて85%ものコスト削減を実現しました。
低コスト開業のメリットは、毎月の利益から投下資本を回収しやすい点にあります。この事例でも、初期投資が抑えられたことで、会員収入から諸経費を引いた営業利益で早期に初期費用をペイでき、その後の黒字幅を拡大しやすくなったといいます。
ポイントは、元からあるものを上手に活かし、必要最小限の支出で価値ある空間を作り上げたことです。「お金をかければ良い空間ができる」というものではなく、工夫次第で低コストでもユーザー満足度の高いコワーキングスペースを開業できる好例と言えるでしょう。
ケース2: 都市部で開業、堅実運営で徐々に利益を確保
次に、都市部での開業例です。こちらは駅近の好立地(駅徒歩5分圏内)に約30坪規模のコワーキングスペースを構え、内装デザインにもある程度こだわったケースです。
開業当初に要した初期費用は、物件取得費や内装工事・設備投資などを合わせて約1,000万円でした。
開業後は会員収入が月約150万円、経費合計が約130万円(家賃・光熱費・人件費など)となり、月々10~20万円程度の黒字を確保できました。ただ、初期費用1,000万円をこの利益で回収するには数年を要するペースです。
その後、受付を無人化して人件費を削減したところ、月あたり約20万円のコスト減となり利益率が向上したとのことです。
この例から分かるように、立地が良く集客が順調でも、初期投資が大きいと回収に時間がかかる場合があります。特に有人運営で人件費がかかる場合、利益率が低くなりがちです。
無理なく開業資金を回収するには、なるべく初期コストを抑えたり、運営コストを削減する工夫が重要になります。一方、利用者ニーズに応じて運営体制を見直すことで黒字幅を拡大できる可能性も示されています。
まとめ
コワーキングスペースの開業には、最低でも数百万円から、内容次第では数千万円の初期費用が必要になります。
しかし、その金額にはかなり幅があり、工夫次第で初期投資を大きく抑えることも可能です。本記事で解説したように、物件費用と内装費用がコストの大半を占めますが、立地選びや物件活用の工夫、施工内容の最適化によって費用対効果の高い開業を目指せます。
開業後に安定した運営を続けるためには、単にお金をかければ良いというものではなく、市場ニーズにマッチしたコンセプト設定、堅実な収支計画とコスト管理、そして利用者に選ばれる付加価値の提供が不可欠です。幸いコワーキングスペースという業態は、資格や在庫を要さず比較的小資本で始められる反面、運営者のアイデアと努力次第で大きく成果が変わるビジネスでもあります。
昨今のリモートワーク拡大やフリーランス人口増加の流れから、コワーキングスペースへの需要は今後も見込まれます。しっかりと準備を行い、利用者の「かゆいところに手が届く」サービスを提供できれば、十分に成功のチャンスはあるでしょう。
この記事の内容を参考に、開業費用の目安やプロセス、注意点を踏まえ、着実に準備を進めていけば、きっと自身の理想とするコワーキングスペースを開業し、利用者に喜ばれつつビジネスとして成功させることも十分可能でしょう。
