コワーキングスペース開業する際に気になる「コスト・費用」ですが、最も大きくなりやすい費用が家賃・工事費。
その中でも「スケルトン物件」が最も費用が高くなってきます。
スケルトン物件とは「床・壁・天井などに内装が施されていない状態」の物件のこと。
簡単に言えば、何もない空っぽの部屋を自分たちで1から作り上げていく空間です。
オフィスや店舗で例えると、居酒屋やカフェがあった場所をそのまま使う「居抜き物件」とは逆の状態になります。
スケルトン物件で開業すると、内装工事が全て自分たちの手に委ねられるため、デザイン自由度が非常に高くなりますが、内装費用や準備期間は居抜き物件よりもはるかに大きく膨らむことを覚悟する必要があります。

要素 | スケルトン物件 | 居抜き物件 |
---|---|---|
内装自由度 | 完全自由に設計・デザインできる | 前テナントの内装を流用、自由度は制限される |
初期コスト | 内装工事・設備導入に高額投資が必要 | 内装工事不要で費用を大幅節約可能 |
開業期間 | 内装工事の期間がかかり、準備に時間を要する | すでに内装済みなので短期間で開業可能 |
退去負担 | 原状回復費用が高額になりやすい(骨組み状態に戻す必要あり) | 負担は少なく、退去コストを抑えやすい |
スケルトン物件では自由なレイアウト設計ができるため、コワーキングスペースに必要な共用スペース(ラウンジやミーティングルーム、集中ブースなど)を思い通りに配置できます。
また、物件の制約に縛られないぶん、空間づくりの工夫次第で他にはない個性的な施設に仕上げられる点が魅力です。
スケルトン開業のメリット
デザイン・ブランドの自由度が高い
内装の色や素材、照明、家具配置にいたるまで、施設コンセプトに合わせて自由に設計できます。
コワーキングスペースでは「おしゃれで開放的」「コミュニティ型」「カフェ風」などイメージが重要なので、スケルトン物件ならではのこだわりが活かせます。
たとえば、天井を高くしたインダストリアル調の演出や、部分的に吹き抜けを作って開放感を演出するなど、競合施設との差別化を図りやすいでしょう。
レイアウト変更の柔軟性
仕切りや設備を自由に配置・変更できるため、利用者数や事業内容の変化にも柔軟に対応できます。
利用者の増減やイベント開催時には、パーテーションの位置替えや家具の追加で手軽にスペースを再構成可能です。
長期的に見ても、事業拡大や縮小に応じて空間を最適化しやすい点は大きなメリットで
設備計画の最適化
スケルトン状態では配線・空調ダクト・給排水設備などが露出していることが多く、必要なインフラを自由に取り回せます。
コワーキングでは通信インフラや電源配置が重要ですが、天井裏や壁の配管を意識しながら配線できるため、ワーキングデスクやミーティングルームの位置を効率よく決められます。
特殊な機材を設置したい場合や将来の増設を見据えた計画も立てやすい点がメリットです。
広いスペースを確保しやすい(地方での開業)
都市部では坪単価が高くて広い物件を得にくい一方、地方や郊外では不動産価格が抑えられている地域が多いです。
近年、通信環境の整備も進み、リモートワーク需要の高まりから、郊外や地方でのコワーキング開業が注目されています。賃料が低い物件を選べば、東京では難しい広さや天井高を備えたスペースを確保しやすくなります。
その結果、大きなラウンジやイベントスペースを設置し、都市部とは異なる居心地の良さを打ち出すなど、地方ならではのメリットを活かせる可能性があります。
スケルトン開業のデメリット
初期費用が非常に高い
床・壁・天井の内装工事や照明・電気設備などを一から施工する必要があるため、開業にかかる工事費用は居抜き物件の数倍に膨らむことがあります。
デザインにこだわればこだわるほど費用が増える傾向にあり、一般的な内装付き物件に比べて初期投資額は大幅に増加します。
さらに、家具や什器など設備投資も全て自社負担になるため、資金計画には余裕を持つ必要があります。
開業準備に時間と手間がかかる
内装業者とのやり取りや建築確認など、設計・工事のプロセスを自社で管理しなければなりません。
許認可の手続きや施工スケジュールの調整、工事内容の検査など、経験が浅いと工数がかかりやすく開業までに想定以上の時間を要することもあります。
コワーキングスペースはオープンまでの準備期間が長引くと、マーケットのタイミングを逃したり、運転資金の負担が長期化したりするリスクも増大します。
原状回復コストや撤退リスク
賃貸契約終了時には原状回復義務により、内装をすべて撤去してスケルトン状態に戻す必要があります。
工事範囲が広いため撤去費用も高額になりやすく、退去時の負担が大きくなります。また、事業が不振で撤退する場合、かけた内装投資を回収できないリスクもあります。
実際、地方で起業したコワーキングでは「特色のない施設だったため定期利用者が集まらず撤退した」という失敗例も報告されています。
差別化のない空間は利用者の興味を引かず、撤退コストだけが残ってしまう可能性があることに注意が必要です。
維持管理の手間が増える
天井や躯体が露出しているため掃除やメンテナンスが大変になる面があります。
高所清掃や防塵対策、空調調整などに手間や追加コストがかかるケースもあります。
特に天井高があると暖房・冷房効率が下がったり、照明設備の追加が必要になったりすることがあるので、運用コストは念頭に置いておきましょう。
事例:成功・失敗のポイント!
低コスト成功例(内装を活かす工夫)
逆に、全く内装を行わないことでコストを抑えた工夫例もあります。
あるコワーキング運営者は、ホテルの未使用の宴会場を改装してコワーキングに転用しました。既存の床・壁・天井はそのまま利用し、家具レイアウトだけを工夫してオープンしたところ、一般的に1000万円程度かかると言われる内装費を約150万円にまで圧縮できたとのことです
このように、スケルトン開業とは対極のアプローチですが、「既存の空間を生かせば、低コストでスタートできる」という参考になる事例です。
失敗例(コンセプト不足)
一方、スケルトンでコワーキングを作っても、施設の魅力が薄いと利用者が集まりません。地方で開業した例では、「これといった特色がない」コワーキングスペースとして認識され、定期的な利用者が獲得できずに閉鎖に追い込まれたという失敗談があります。つまり、いくらスケルトンで自由にデザインできても、ユーザー目線で「ここで過ごしたい」と思える魅力がなければ事業は成り立ちません。
開業前には、ターゲット層や地域ニーズを十分に調査し、差別化ポイントを明確化しておくことが重要です。
企業の実例(工夫と覚悟)
大手企業が自社オフィス内でコワーキングスペースを新設したケースでは、デザイナーや関係者がプロジェクトに深く関与し、空間づくりに徹底的に取り組んでいます。たとえば、企業内に作られたコワーキングスペースでは、“NECらしくない場”をコンセプトに、天井の露出、個性豊かな家具・照明、そして利用シーンに合わせた多彩なスペース設計が行われました。
ここではスケルトンの自由度を最大限活用し、従来のオフィスとは全く異なる空間を作り出しています。このように専門家のノウハウを借りながら時間をかけることで、質の高い空間が実現できるのはスケルトン開業ならではのメリットです。
まとめ
スケルトン物件でコワーキングスペースを開業する最大の利点は、他にはないオリジナル空間を作れる自由度の高さです。
ブランディングを反映したデザインや、用途に合わせた柔軟なレイアウトなど、理想のワークスペースをゼロから構築できます。しかしその反面、初期費用や開業準備の労力が非常に大きい点は見逃せません。時間・費用・専門知識の投資を十分に検討したうえで、自身の事業プランと照らし合わせる必要があります。
どうしても大規模な改装が難しい場合は、一部を居抜き活用したり、セットアップオフィス(内装済み物件)やレンタル施設で小規模に試験開業してみる方法もあります。
いずれにせよ、コワーキングスペースの成功には空間設計だけでなく「人が集まる仕掛け」も不可欠です。スケルトンで開業する際は、魅力的な内装づくりに加え、コンセプト立案や地域・コミュニティづくりにも注力することが重要でしょう。
適切な準備と計画で、オンリーワンのコワーキングスペースづくりに挑戦してみてください。