近年はコロナ禍になっていた影響もあり、リモートワークやテレワークの普及が進み、オフィスを持たず自宅を事務所にして起業するスタイルが注目されています。
立地の良いオフィスを借りてビジネスを始めたい一方で、起業当初のコストを抑えたいというニーズも多いでしょう。そこで、自宅を会社の所在地として登記し、そのままビジネスを始めるメリットとデメリット、注意点を整理して紹介します。

自宅住所での会社設立を検討している人は、注意しておきたいポイントもあるので、ぜひメリット・デメリットを理解してから決断しましょう!
法人登記で必要な本店所在地
会社を設立するにはまず、会社法に基づき本店所在地を登記する必要があります。
自宅の住所を本店所在地とすること自体は禁止されていないため、条件が整えば自宅でも会社所在地とできます。
ただし、登記内容は法務局を通じて誰でも閲覧できる公開情報となるため、慎重な検討が必要です。

自宅住所を会社所在地として登録できるのか、賃貸や持ち家それぞれのパターンでチェックしていきましょう。
賃貸物件で自宅を登記する場合
賃貸住宅や分譲マンションに住んでいる場合、契約書や管理規約に事業利用の制限があることがあります。
多くの物件では「居住用のみ」と記載され、事務所としての使用が禁じられているケースが見られます。
したがって、契約書類を確認し、事前に大家や管理会社に許可をとることが重要です。無断で法人登記を行うと契約違反となり、契約解除や損害賠償請求のリスクもあります。
持ち家の場合
持ち家であれば、基本的に本店所在地として登記して問題ありません。ただし、自宅の一部を事業用に使う場合は、住宅ローン減税の対象外となる可能性があります。
減税要件を満たしているかどうかは住宅ローンの契約条件によるため、金融機関への確認が必要です。
会社形態の違い
会社形態によって登記手続きや運営コストに違いがあります。
以下は主な比較例です。
| 会社形態 | 登記費用(最低額) | 設立手続き | 運営・信用の特徴 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 約15万円 | 定款の公証人認証が必要 | 対外的な信用度が高く、資金調達に向く |
| 合同会社(LLC) | 約6万円 | 定款の認証不要 | 設立費用が安く、少人数運営に向く |
合同会社は出資者と経営者が一致しやすい形式で、設立費用も低めに抑えられるのが特徴です。
一方、株式会社は定款認証などの手続きが必要でやや手間がかかりますが、社会的な信用度や将来の事業拡大・投資のしやすさで優位と言われます。
自宅を本店所在地として起業する場合、住所の扱い自体に違いはありませんが、設立費用や今後の事業方針を踏まえて会社形態を選択すると良いでしょう。
自宅兼事務所のメリット
自宅を事務所として使用する最大のメリットはコスト削減です。
賃貸オフィスを借りる場合に必要となる家賃や敷金・礼金、通勤費用などを節約できます。
また、自宅で働く時間が長い場合は家賃や光熱費の一部を経費として計上できるため、税負担の軽減にもつながります。
- 費用削減: オフィス賃料や初期費用が不要で、大幅な経費削減が可能です。開業時の初期投資を抑えられ、事業が安定するまでの資金的な負担を軽くできます。
- 経費計上が可能: 仕事で使用する自宅部分の家賃・光熱費・通信費などは、業務使用割合に応じて経費として処理できます。例えば自宅で1日8時間働き、1日の総在宅時間が24時間の場合、家賃や光熱費の約3分の1を経費にできる考え方もあります。
- 起業までの時間短縮: 物件探しや入居準備にかかる時間が不要です。パソコン一台あれば仕事を始められる業種であれば、オフィス開設の手間を省いて起業をスピードアップできます。
- 通勤不要: 毎日の通勤がなくなるため、移動時間や交通費を削減できます。通勤ストレスが軽減され、その時間をビジネス準備や休息に充てることが可能です。
- 働き方の自由度: 自宅では勤務時間や服装を柔軟に設定でき、ライフスタイルに合わせた働き方が可能です。自分のペースで作業を進められるため、生産性向上につながる場合もあります。
- 働き方の柔軟性: 自宅であれば育児や介護、家事などとの両立がしやすくなります。仕事の合間に家族のサポートができるなど、ワークライフバランスを保ちやすい点も魅力です。
| ポイント | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| コスト | オフィス賃料や通勤費用が不要となる | —— |
| 起業準備 | 物件探しや契約手続き不要ですぐに始められる | —— |
| 通勤 | 通勤時間や交通費が削減できる | 自宅と職場の境界があいまいになりやすい |
| 信用度 | —— | 会社所在地が住宅地となり、取引先に不安視される可能性 |
| プライバシー | —— | 住所が公開情報となり自宅が特定されるリスク |
| フレキシビリティ | 家庭や育児との両立がしやすい | 仕事と生活の切り替えが難しい |
自宅を事務所にする起業では、固定費削減や時間節約など大きなメリットがあります。
一方で、次に挙げるようなデメリット・注意点にも目を向ける必要があります。
自宅兼事務所のデメリット
一方で、自宅を事務所にする際には留意すべきデメリットもあります。
- 公私の区別がつきにくい: 自宅と仕事の空間が一体になるため、オン・オフの切り替えが難しくなりやすいです。仕事時間外でも業務連絡に気を取られる、逆に仕事時間中に家事や雑事に気を取られるなど、集中力の維持が課題になる場合があります。
- 社会的信用やイメージ: 会社所在地に住宅地の住所を使っていると、取引先や顧客が事務所の規模を疑問視することがあります。特にBtoBの取引では、「オフィス無しで運営している会社」という印象を持たれるリスクもあります。
- コミュニケーション機会の減少: オフィスを持たないことで他企業や社員との交流機会が減りがちです。情報共有や技術交流の場が限られるため、業務やアイデアに行き詰まりを感じることがあります。
- 近隣への配慮・制限: 自宅で業務を行う場合、来客や配送物、業務による車の出入りなどで近隣の迷惑になる可能性があります。また、騒音や駐車に関するトラブルを防ぐため、地域のルールやマナーを守る必要があります。
- 賃貸契約や管理規約の制約: 賃貸物件の場合、契約書で事業利用が禁止されていることがほとんどです。無断で登記すると契約違反となり、賃貸借契約の解除や損害賠償請求を受ける恐れがあります。分譲マンションでも管理規約で事務所利用が禁止されているケースがあるため、あらかじめ確認と許可取得が必要です。
- プライバシー・セキュリティ: 本店所在地が自宅住所になることで、法人登記簿や請求書、名刺などに自宅の住所が載ります。これにより、自宅が第三者に知られることになり、プライバシーやセキュリティ面での不安要素が増します。
- 商談スペースの不足: 来客対応のための打ち合わせスペースを確保しにくい場合があります。自宅での商談には限界があり、特に大口取引先や機密情報を扱う場面では不向きです。
- 融資・補助金の審査: 自宅所在地であることが創業融資や助成金審査でマイナスになる場合があります。金融機関は事業規模や将来性を重視するため、オフィスがある企業に比べて信用度が低くみなされることがあると考えられます。
自宅兼事務所に適した事業・業種
自宅を事務所にする起業に向いているのは、比較的少人数で運営できる事業や、主にデジタル機器を使う業種です。
例えば、ITエンジニア、Web制作、デジタルマーケティング、コンサルティング、デザイン制作、写真・映像制作、ライターやイラストレーターなどのクリエイティブ系は自宅でも支障なく業務を進めやすいでしょう。
また、通信販売やネットショップの運営、オンライン学習サービスなども場所を問わず展開できるため適しています。
一方で、事務所を構えることが許認可の要件になっている業種(例:人材派遣業、飲食店、保育施設など)や、大量の荷物を取り扱う物流業、自宅での利用が認められにくい特殊な設備を要する事業は、自宅兼事務所に向きません。
事前に自分の事業が許認可を必要とするかどうか、また所在地について規制がないか確認しておくことが大切です。
自宅兼事務所起業の手続きとポイント
自宅を本店所在地にして起業する場合も、基本的な会社設立の流れは一般的な手続きと同じです。
主なステップを以下に示します。
- 事業計画と物件確認: まず自宅で事業を継続できるか検討します。賃貸契約や管理規約の確認、必要であれば大家や管理組合への相談を済ませておきます。
- 会社形態と資本金の決定: 株式会社か合同会社(LLC)を選択し、資本金や代表者、役員など基本事項を決めます。会社形態の選択は前述の通りコストや将来性を考慮して行います。
- 定款作成・認証: 株式会社の場合は定款を作成し、公証人役場で認証を受けます。合同会社は認証不要ですが、定款を準備します。定款には本店所在地として自宅住所を記載します。
- 登記申請: 定款認証後、法務局で設立登記を申請します。本店所在地には自宅の住所を記載するため、申請書類一式に間違いがないか再度確認しましょう。登記完了後、登記事項証明書を取得します。
- 税務署・役所への届出: 会社設立後は税務署に法人設立届出書を提出し、青色申告の承認申請や給与支払事務所等の開設届出を行います。社会保険や労働保険への加入手続きも必要です。
- 設備・環境の整備: インターネット回線やオフィス家具など業務に必要な設備を整えます。住所が自宅になる場合、ビジネス用の電話番号や郵送物の管理を工夫すると良いでしょう。
許認可の注意点
自宅を拠点とする事業でも、業種によっては関係法令に基づく届出や許認可が必要です。
例えば飲食店や理美容業などの業種は保健所への開業届や許可が必要ですし、建設業や宅配業など一部の業種では事務所の規模や設備要件が定められています。
また、行政や税務署によっては事務所開設に関する届け出が求められる場合もあるため、起業前に管轄窓口に確認しておくと安心です。

自宅の住所で会社設立を検討している場合は、管轄しているエリアの税務署に相談しに行くのがおすすめです。
何かと情報やアドバイスをもらえます!
従業員を雇用する場合
一人で起業する場合は自宅でも支障が少ないですが、事業が成長して社員を雇用するようになった場合は自宅スペースだけでは限界があります。
自宅には数名分のデスクや会議スペースを確保しづらく、消防法上の避難経路や換気・衛生管理の基準も満たさなければなりません。
そのため、複数名の従業員を安定的に働かせるには賃貸オフィスへの移転が必要になるケースが多いことを覚えておきましょう。
経費処理のポイント
自宅兼事務所では、家賃や光熱費だけでなくインターネット料金や通信費、業務用の家具・什器購入費なども経費に含めることができます。
ただし、生活費と事業費が混在しないよう、経費計上は使用時間や使用面積に基づいた合理的な按分が求められます。
例えば、1日のうち6時間を仕事に充てていれば全在宅時間の6分の1を経費扱いし、書面や帳簿で根拠を記録しておくと安心です。
また、事業用の銀行口座やクレジットカードを別に用意し、領収書や請求書を整理しておくと税務調査でも説明がしやすくなります。
起業事例・傾向
特にIT系スタートアップやクリエイティブ系の企業では、初期投資を抑えるために創業からしばらくの間は自宅をオフィス代わりに活用するケースが増えています。
事業が軌道に乗って社員を増やすタイミングで賃貸オフィスに移転するパターンが一般的です。
例えば、地方在住の経営者が自宅の一室を使ってECサイトを立ち上げ、数年で収益が安定した後に都市部の小規模オフィスに拡張したという事例もあります。最初は自宅で徹底的にコストを抑えつつ、需要が見込めるようになった段階で徐々に投資する方法は、低予算で起業する一つの戦略と言えるでしょう。
個人事業主からの法人化
もともと個人事業主として自宅を事務所にしている場合、法人化の際に本店所在地を引き継げるメリットがあります。個人事業では自宅住所を納税地として開業届に記載するだけで済みましたが、法人設立ではさらに定款への記載や登記が必要です。
個人事業から株式会社や合同会社への移行タイミングであっても、同じ住所で登記できれば事業継続への影響を最小限にできます。
ただし、個人事業の開業届・廃業届を適切に切り替える必要があります。
自宅オフィス成功のポイント
自宅で仕事を進める際は、仕事専用のスペースや環境作りが重要です。
できれば専用のデスクや一室を確保し、業務時間と私生活を明確に切り替えられるようにしましょう。
ルールを作り、例えば始業・終業時間を設定したり、作業中は家事を控えるなど、メリハリを持った働き方が生産性の維持につながります。
また、オンラインのビジネスコミュニティや専門家ネットワークに参加して情報交換することも、孤立しがちな在宅起業で成功するポイントです。
ICT環境の整備
自宅を事務所とする場合は、情報通信環境の整備も重要です。
高速インターネット回線や仕事用のパソコン、プリンターなどの機器を用意しましょう。オンライン会議ツールやクラウドサービスを活用すれば、遠隔の取引先との打ち合わせやファイル共有もスムーズになります。
セキュリティ対策としてはウイルス対策ソフトやファイアウォールの導入、定期的なパスワード変更などを行い、業務データを守ることが求められます。
オフィス移転のタイミング
創業からしばらくは自宅で運営し、事業が成長してきたらオフィスを借りるケースが多いです。
目安としては社員数が5〜10人を超えたり、設備や会議スペースが足りなくなったりした場合です。
移転時には賃料だけでなく、立地や交通アクセス、オフィス環境の充実度も重要になります。コストとメリットを比較したうえで、より適した環境への移行を検討しましょう。
家族・同居人との調整
自宅で起業する場合、家族や同居人に事業内容を説明し協力を得ることも大切です。
仕事中の騒音や出入りを配慮してもらう代わりに、終了時間を守るなどルールを決めてトラブルを防ぎましょう。特に複数名で同居する場合はプライバシー管理も重要になるので、訪問客への対応方法なども事前に相談しておくと安心です。
保険や補償の検討
自宅を業務拠点とする場合、業務中の事故や設備故障への備えも重要です。
個人で加入している火災保険や賠償責任保険の契約内容を確認し、事業利用が含まれているか確認しましょう。
不足がある場合は、業務用の保険や賠償責任保険の追加を検討すると安心です。例えば、パソコン故障や第三者への損害賠償に備えることで、万一のリスクに備えられます。
まとめ
自宅兼事務所での起業は、コスト面や働き方の柔軟性という大きな魅力があります。
しかし注意点や手続きも多岐にわたるため、準備不足によるトラブルには注意が必要です。
これから自宅を拠点に起業しようと考えている方は、まずこの記事を参考に、自分のライフスタイルや事業計画に合った働き方を整理してみましょう。

