ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」という新しい働き方が注目を集めています。
リゾート地や観光地など非日常の環境でリモートワークを行い、休暇も兼ねるスタイルで、生産性向上やリフレッシュ効果が期待されています。
そんなワーケーションですが、仕事と休暇が混在するため、その費用を経費で落とせるか(=事業の経費として計上できるか)の判断は難しい面があります。
旅行先での交通費や宿泊費、食事代などを経費扱いにできれば節税につながりますが、果たして可能なのでしょうか。
この記事では、ワーケーションの費用が経費として認められるケースや、その際の注意点・理由について、中立的な立場で詳しく解説していきます。
ワーケーションとは?
ワーケーションとは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、普段とは異なる環境で仕事を行いながら、その場所で休暇も楽しむ働き方です。
そのため、発生する費用に仕事とプライベートの両面が含まれ、経費として計上できるかの判断が難しい側面があります。
そもそも経費として認められるための基本条件を押さえておきましょう。
下記の記事で、企業の人事担当者とフリーランスそれぞれの視点から、ワーケーションの効果や準備方法、成功のポイントを詳しく解説しているので、ワーケーションについてより詳しく知っておきたい方はチェックしてみてください。

経費として認められるための基本条件は?
まず、大前提として経費計上が認められる支出とは「業務のために必要な費用」です。
法人であれば会社の事業遂行上必要なコスト、個人事業主であれば売上を上げるために直接必要な支出のみが経費になります。逆に言えば、業務に関係ないプライベートな支出は経費にできません。
領収書を取得していれば経費になると誤解されがちですが、領収書の有無ではなく「必要性」の有無が重要です。領収書があっても業務関連性を説明できない支出は経費とは認められません。
この点、ワーケーション費用については2025年現在、国税庁から明確な取り扱い基準が示されていません。
そのため、最終的には個々のケースで「本当に仕事のために必要だったか」が問われることになります。
ワーケーション先での業務遂行に真に必要な費用であれば経費計上の余地がありますが、単なる休暇部分の費用は基本的に経費にできないと考えておくべきです。
ワーケーションで発生する主な費用と経費計上可否
ワーケーション中に発生する代表的な費用項目について、経費として計上できるケースとできないケースをまとめると以下の通りです。
費用項目 | 経費として認められるケース | 経費として認められないケース |
---|---|---|
交通費 | 業務の都合で現地に行く必要がある場合 (例:取引先との会議出席のための移動費) | 単なる観光・休暇のための移動費(自分の希望で赴いた旅行) |
宿泊費 | 業務上やむを得ず宿泊が必要な場合 (例:翌日に商談があるための前泊) | 観光・レジャー目的で滞在する宿泊費 |
食事代 | 仕事関係者との会食費用 (会議費・接待交際費等として処理) | 個人的に摂った食事の費用 |
通信費 | 業務に必要な通信環境整備費 (例:Wi-Fiレンタル代、追加データ通信料) | プライベート利用のみの通信費用 |
施設利用料 | 仕事のために利用した施設の料金 (例:コワーキングスペース利用料) | 観光施設や娯楽施設の利用料金 |
備品・消耗品費 | ワーケーション中に業務上必要となり購入した物品 (例:PC周辺機器、ビジネス書籍) | 個人的な買い物(お土産、娯楽用品など) |
観光・アクティビティ費 | 該当なし (業務関連性がない) | 観光ツアー参加費、レジャー施設の入場料など純粋な娯楽費用 |
上記は典型的なケースの一例です。続いて、各費用項目ごとに経費計上の可否とポイントを詳しく解説します。
交通費は経費で落とせる?
ワーケーション先までの交通費については、基本的には経費にするのは難しいと考えられます。
リゾート地や観光地に行って仕事をすること自体に必然性がない場合、「好きな場所に行くための交通費」を業務上必要と説明するのは困難だからです。自宅や通常のオフィスでも可能な仕事をわざわざ遠方で行うだけでは、原則としてその移動費は経費として認められません。
しかし、業務上どうしても現地に行く必要がある理由がある場合は例外です。
例えば、ワーケーション先で重要な取引先と商談・打ち合わせを行う、現地でしか得られない視察や取材を行う、といった明確な業務目的がある場合には、その移動にかかった交通費は必要経費として認められる可能性があります。
ポイントは「その出張先に行かなければ仕事にならない必然性」を説明できるかどうかです。
なお、仕事と観光が混在する旅行費の考え方として、旅費を按分(あんぶん)計算する方法も参考になります。
国税庁の通達(海外出張時の取扱い)では、旅程に占める業務従事の割合に応じて経費算入できる範囲を決める指針が示されています。
業務従事割合が90%以上の場合:旅費・滞在費の全額を経費計上可
業務従事割合が50%以上の場合:往復の交通費は全額経費、現地滞在費は業務割合に応じて按分計上
業務従事割合が10%以下の場合:旅費・滞在費とも経費計上不可
といった基準です。ただし、これはあくまで海外出張における参考ルールであり、ワーケーションの場合は前提として「そこに行くこと自体の業務必然性」が弱いケースが多い点に注意が必要です。観光・休暇が主目的の場合、たとえ一部仕事をしていても交通費の全額を経費で落とすのは難しく、精々業務に関連する部分のみ一部経費計上するに留まるでしょう。
宿泊費は経費で落とせる?
旅先でのホテルや旅館などの宿泊費も、仕事のためにどうしても泊まる必要がある場合に限り経費計上が可能です。
例えば、翌朝に現地で重要な商談があるため前日に前泊した、といったケースではその宿泊費は業務上必要な費用とみなせます。また、出張の一環としてワーケーション先に滞在する場合(例えば取引先との日程調整上、数日現地に留まる必要がある等)も、必要最小限の宿泊日数であれば経費にできるでしょう。
一方で、休暇や観光が主目的で宿泊している場合は経費として計上することはできません。
単にリフレッシュや旅行を楽しむために滞在しているホテル代は、業務関連性を証明できないためです。繰り返しになりますが、重要なのは「業務で必要か否か」です。
仕事の都合ではなく個人的な理由で延泊したり、観光目的で高級リゾートに宿泊したりする費用は、経費として認められない可能性が極めて高いです。
食事代は経費にできる?
ワーケーション中の食事代についても、基本的には個人の生活費であり経費にはなりません。
どんなに仕事を頑張っていても、食事をとること自体は誰にとっても日常の行為であり、業務に直接関係ないためです。自分一人でレストランやカフェで食事した費用、観光の合間に立ち寄った飲食店の代金などは経費計上できません。
ただし、仕事に関連した飲食代であれば経費として認められるケースがあります。例えば、ワーケーション中に現地の取引先や仕事関係者と会食した場合、その飲食費は業務上必要な経費として処理できます(会議費や接待交際費等の勘定科目で計上)。
また、会社の従業員がワーケーション先でチームの親睦を深めるために食事会を開催したような場合も、条件を満たせば福利厚生費として計上できる可能性があります。
いずれの場合も、「業務目的の飲食」であることがポイントです。
当然ながら、本人のみが楽しんだ食事や飲み物は経費になりません。また、仮に仕事関連の会食であっても、税務上は一人当たり5,000円以下の会議費ルールや接待交際費の限度額など細かな規定があります。
高額な接待を行った場合には経費算入が制限される場合もありますので、社内規定や税務上の取り扱いを事前に確認しておくと安心です。
通信費は経費にできる?
ワーケーション中に必要となるWi-Fiやモバイル通信などの通信費用は、業務と直接関係がある出費として経費にできる場合が多いです。
リモートワークを行うにはインターネット環境が不可欠であり、もし滞在先に十分な通信手段がない場合には、ポケットWi-Fiをレンタルしたりモバイルデータを追加購入したりすることになるでしょう。そうした追加通信費は、仕事を継続するために必要なコストといえるため、経費として認められる可能性が高いです。
ただし、通信費であっても私的利用分は経費にはできません。
例えば個人のスマートフォンや自宅インターネット料金を事業経費にする場合、本来は業務で使用した割合に応じて按分計上する必要があります。同様に、ワーケーション中に発生した通信費も、その大半が業務目的であれば経費計上できますが、もし私的な動画視聴やゲームのための通信などが含まれる場合には、その分は除外するのが望ましいでしょう。
総じて、ワーケーションで仕事を行うための通信環境整備費用は経費性が認められやすいと言えます。
ただ、会社によっては経費精算時に通信費について使用目的や利用時間帯の報告を求める場合もあります。業務以外の用途に使っていないか明確にできるよう、利用状況を記録しておくと安心です。
コワーキングスペース利用料などは経費にできる?
ワーケーション中に仕事場としてコワーキングスペースやレンタルオフィスを利用した場合、利用料金は経費として認められる可能性が高いです。
業務を遂行するために直接必要な施設利用費用であり、いわば臨時のオフィス賃料のようなものですので、ビジネスの経費とみなすことに無理はないからです。実際、多くの企業でコワーキングスペース利用料は出張経費等として精算対象になっています。
もっとも、会社によってはワーケーション時の施設利用費を経費精算する際に、そこで実際に業務を行った証跡を求めることがあります。
例えば、オンライン会議を行った場合は議事録や参加者のメール記録を残す、作業した時間帯を報告する、といった対応です。経費として申請する以上、きちんと仕事目的で使われたことが説明できるようにしておきましょう。
なお、コワーキングスペース以外にも、仕事に必要な設備や会議室などを一時利用した費用があれば、それも同様に経費計上可能です。一方で、観光目的のアクティビティ施設や娯楽設備の利用料は経費にならないことは言うまでもありません。
その他:消耗品費・備品購入費など
ワーケーション中に業務遂行のため急遽購入した消耗品や備品があれば、それも業務必要経費として計上できる可能性があります。
例えば、パソコン周辺機器(マウスや電源ケーブルなど)を忘れて現地で買い足した場合、仕事を続けるために必要な支出ですので経費性が認められるでしょう。また、現地で仕事に役立つ書籍を購入した、資料を印刷するために文具を買った、といったケースも同様です。
注意したいのは、それが本当に仕事上必要な物品かという点です。たとえば、旅先で個人的に使う日用品やお土産を購入した費用は経費になりませんし、「仕事に関係あるから」と無理にこじつけるのは避けるべきです。
税務調査などで指摘を受ければ経費計上を否認されるリスクがあります。あくまで業務に関連すると胸を張って言える出費のみを経費としましょう。
観光や娯楽に関する費用
観光ツアー代やレジャー施設の入場料、アクティビティ参加費用といった純粋に休暇・娯楽のための支出は、経費として計上できません。
ワーケーションでは非日常の体験を楽しむことも醍醐味ですが、それ自体は事業の必要経費とはみなされない点に注意が必要です。
「リフレッシュすることで仕事の効率が上がるから娯楽費も経費になるのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、税務上はそのような間接的な効果は考慮されません。
事業との直接的な関連性がない出費はあくまで個人の楽しみであり、経費にはならないのが原則です。
なお、法人企業が福利厚生の一環として社員旅行などを行う場合には、一定の条件(旅行日数や参加人数等)を満たせば娯楽要素のある費用も福利厚生費として認められるケースがあります。
しかし、それは全従業員に対する慰労目的など会社行事としての位置づけが明確な場合に限られます。個人事業主やオーナー社長が自分の観光目的の出費を福利厚生と称して経費にすることはできません。
ワーケーション費用を経費にする際の注意点
ワーケーション費用を経費計上する際は、業務に必要な費用のみに限定することが鉄則です。
仕事と無関係なプライベートの部分まで経費で落とそうとすれば、経費性が疑われ後々トラブルになる可能性が高まります。
例えば、現地で打ち合わせを行った日が1日だけなら、その前後の余暇日まで含めて旅費や宿泊費を経費にするのは避けましょう。あくまで「業務のために出費した部分」のみに絞って経費精算・会計処理を行うことが大切です。
個人事業主と法人(従業員)で異なる判断になる
ワーケーション費用の経費計上については、個人事業主(フリーランス)と会社員(法人従業員)で判断に違いが生じる場合があります。
従業員の場合、企業が従業員のリフレッシュ目的でワーケーション費用を一部負担し(福利厚生費として処理)経費計上を認めるケースもあります。しかし、個人事業主には福利厚生という概念がないため、同じ支出でも個人的出費と見なされやすく、経費化はより厳しく判断されます。
また、社長ひとりだけの法人(オーナー企業)で自分のワーケーション費用を経費にすることにも注意が必要です。そのような支出は税務上、社長個人への給与や賞与と見なされ、会社の経費として認められないリスクがあります。
自分自身のためのワーケーション費用を経費で落とすのは原則難しいと心得ておきましょう。
経費で落とす以外に費用を抑える方法は?
ワーケーション費用のうち経費にできない部分については、自治体の補助金制度を活用して実質的な負担を軽減することも検討できます。
近年、地方創生やテレワーク推進の観点から、多くの自治体が企業や個人向けにワーケーション支援の補助金・助成金を用意しています。
例えば、ある自治体ではワーケーション参加者1人あたり数万円の補助金を給付していたり、宿泊費や交通費の一定割合を補助する制度が見られます。こうした補助制度を利用すれば、経費計上はできなくても自己負担額を減らすことが可能です。
ワーケーションを計画する際は、滞在予定先の自治体や観光協会の情報を調べ、該当する支援制度がないか確認してみるとよいでしょう。なお、補助金には予算や募集期限、報告義務など条件がありますので、利用する際は要項をよく確認してください。
まとめ
ワーケーションの費用が経費で落とせるかどうかについて、ポイントと注意点を解説してきました。
結論としては、仕事のために真に必要と認められる費用であれば経費計上できるものの、休暇的な要素が強い支出は経費にはできないということになります。
交通費や宿泊費なども、業務遂行上の必然性が説明できるケースに限り経費が認められ、それ以外は自己負担となるのが基本です。
ワーケーションは新しい働き方であり、現状では明確な税務上の基準が定まっていません。そのため、自社でポリシーを定めたり、個々のケースで常識的な判断を下す必要があります。
この記事で述べたように、業務関連性をしっかり示せる部分のみを経費とし、グレーな部分に関しては無理に経費化しない慎重さが求められます。
もし判断に迷う場合は、税理士など専門家に相談するのも一つの方法です。適切なアドバイスを受けることで、後から問題にならないよう安全な経費処理ができるでしょう。ワーケーション自体は経費にならない部分があっても、多くのメリットをもたらす働き方です。
経費計上に固執しすぎず、公私の線引きを明確にして、上手にワーケーションを活用していきましょう!